第4回 2017 都市・まちづくりコンクール

レポート

第4回 2017 都市・まちづくりコンクール

名称 第4回 2017 都市・まちづくりコンクール
審査・表彰 平成29年3月4日(土)
会場 関西大学梅田キャンパス KANDAI Me RISE 8階大ホール
審査員
  • 小林 英嗣/北海道大学名誉教授・日本都市計画家協会会長
  • 中野 恒明/芝浦工業大学教授・㈱アプル総合計画事務所主宰
  • 江川 直樹/関西大学教授
  • 角野 幸博/関西学院大学教授
主催 総合資格学院/都市・まちづくりコンクール実行委員会

第4回目となるコンクールには多くの力作が集まった

平成29年3月4日、関西大学梅田キャンパスで「第4回 2017 都市・まちづくりコンクール」が開催されました。本コンクールは、都市計画を研究領域に取り組む学生の「発表の場」、それを「評価する場」、同じ志をもつ学生との「交流の場」の提供を目的として催されています。また、アーバニズムの専門家が審査する学生コンクールは全国でも稀有なため、都市計画の研究に携わる学生において第三者の批評を聞くことのできる貴重な場になっています。昨年に引き続き大阪での開催となりましたが、出展数は68と昨年に比べ約3倍もの作品が集まり、会場となった KANDAI Me RISE 8階大ホールには、多くのポートフォリオ・模型が並びました。

テーマは「拠-よりどころ-」

社会構造の変化、少子高齢化、大災害対策など、常に変革を求められる都市・まちづくり。また、単に地域の活性化や賑わいを創出するだけではなく、環境改善への貢献、歴史的意義や都市のサステナビリティなど、都市計画の研究領域は多岐にわたります。こういった難解な研究に取り組む学生たちが、本コンクールでは、共通の課題(テーマ)に各々の問題意識を見出し、都市計画に取り組みます。

2017のテーマは「拠-よりどころ-」。

近年、都市・まちづくりや地域コミュニティの再編のために、様々な「よりどころ」が作られ、そこから様々な活動が展開されています。まだ提案の余地が多く残されているこのテーマについて、実現の可能性も加味しながら、現代社会が内包する諸問題について、新たな視点で計画できているかが問われました。また、計画の範囲の規模については学生各々にゆだねられましたが、建築物および周辺の空間計画(環境的要素を取り入れた)を含めたものとされました。

審査員巡回による一次審査、学生は簡潔な説明が求められる

一次審査は各審査員が作品を巡回し、学生たちがプレゼンテーションを行うという形式。学生によるプレゼンテーションが1分、質疑応答が1分という短時間で、計画の背景・主旨・目的を簡潔に説明する能力が求められました。4人の審査員が個々に各ブースを回るため、うまく説明できなかった点をノートに書き込み、次のプレゼンテーションで活かす学生の姿も随所で見られ、コンクールに対する真剣さが伝わってきました。

最終審査に進んだのは9作品

巡回審査後、審査員による公開投票にて最終審査に進む作品を選定。審査員は一人10票ずつ作品に投票し、複数の票を集めた上位9作品が最終審査に進みました。 なお、中野 恒明氏の提案により、プレゼンテーション順番および審査員賞決定順は、公平に「ジャンケン」で決めることに。コンクールでありがなら、学生の緊張を解こうという審査員サイドの心配りが感じられたシーンでした。

小林 英嗣 氏

中野 恒明 氏

江川 直樹 氏

角野 幸博 氏

■最終審査選出作品

No 作品名 大学名
No.6 「STATION×CAMPUS -建築のための建築-」 神戸大学
(越智 誠さん)
No.14 「守りひらく廻廊」 九州大学大学院
(林 孝之さん)
No.19 「京都 先斗町大橋 ~Pont des Ponto」 京都工芸繊維大学
(久連松 文乃さん)
No.28 「大阪千日前が浸透するテクスチャ ~エントランス・ストリートの質を高める~」 近畿大学
(前芝 優也さん)
No.41 「輻湊する汽水都市 -大阪発展の源流となる福漁港再生計画-」 関西大学
(東松 幸佑さん・長峰 佳代さん・山本 里奈さん)
No.50 「うつろいのある建築 -都市の裏・渋谷川に自然を感じさせる空合いroof-」 東海大学
(小野 里紗さん)
No.56 「Connect By Olle -Present from Past-」 琉球大学
(川本 莉菜子さん・山下 雄喜さん・中村 友美さん・榮野川 優也さん・岩田 将弥さん)
No.57 「高井田地区のワンスパンストリート」 京都工芸繊維大学
(藤田 拓さん)
No.67 「都市型下町 -新都市大阪福島における最小限型多拠点居住を可能にするライフスタイルの提案-」 関西大学
(中原 比香莉さん・古久保 有香さん)

最終審査の持ち時間は、出展者のプレゼンテーション5分、審査員からの質疑応答5分の合計10分。プロジェクターや模型を使って、計画の目的や計画地の選定理由、特徴を明確に発表する学生たち。審査員から、選定地や計画の詳細について鋭い質問が投げかけられる中、緻密な現場リサーチや研究成果を基に自信を持って答える学生も多く、テーマに対し真摯に向き合った姿勢が伺えました。

プレゼンテーション+質疑応答後、最優秀賞1作品、優秀賞2作品を決定すべく審査員による公開投票が行われました。見事、最優秀賞に選ばれたのは、最も票を集めた関西大学の中原 比香莉さん・古久保 有香さんの作品「都市型下町 -新都市大阪福島における最小限型多拠点居住を可能にするライフスタイルの提案-」。審査員から「場所の問題点をしっかり分析し、空間を活かしながらコミュニティの再編ができている」と高い評価を受けていました。

選出された各賞は以下の通りです。

■入賞

最優秀賞

「都市型下町 -新都市大阪福島における最小限型多拠点居住を可能にするライフスタイルの提案-」
関西大学 中原 比香莉さん・古久保 有香さん

計画地は大阪市福島区のJR福島駅前。近年都市化が著しく福島に多く残る古民家が高層建築に埋もれる状態となっている。下町風景と都市風景が不調和に存在し、住民の関係も希薄な状態である。そこで居酒屋が8割を占めるこのエリアを敷地とし、「食」と「暮らし」を紡ぎながら都市化されつつある福島における新しいライフスタイルの提案をする。住民や福島を訪れる多くの人の拠り所について考えられた作品。

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優秀賞

「STATION×CAMPUS -建築のための建築-」
神戸大学 越智 誠さん

阪急六甲駅とその隣接する敷地に、駅と神戸大学建築学科が混在する複合施設を計画する。建築学生のためだけではなく、地域住民や駅を利用する人々のためにもなる公共空間として設計する。待合室はギャラリーになり、エキナカには木工室や図書スペースが入る。講義の行われるホールは市民ホールとしても解放され、モックアップ室は展示場へと変化する。駅と大学の双方の施設になかった新たな空間、拠り所を生み出す。

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優秀賞

「守りひらく廻廊」
九州大学大学院 林 孝之さん

西洋の広場と違い、日本はかつて単体での公共な場所は存在せず、道や河原、原っぱや境内などが、時に公的な場として変化してきた。しかし近代以降、寺社とその他のエリアを区切ることが優先されたことで、パブリックな場へ変化しづらくなっている。本提案はその一つである境内に着目し、境内を公的な場に変容できる仕掛けつくりを行う。都市の「裏」と化した寺社境内を保持しつつ、人々を境内へ再度誘う廻廊を提案した。

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角野幸博賞
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「輻湊する汽水都市 -大阪発展の源流となる福漁港再生計画-」
関西大学 東松 幸佑さん・長峰 佳代さん・山本 里奈さん

中野恒明賞
写真1

「Connect By Olle -Present from Past-」
琉球大学 川本 莉菜子さん・山下 雄喜さん・中村 友美さん・榮野川 優也さん・岩田 将弥さん

小林英嗣賞
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「糸島空き家プロジェクト -学生主体の空き家改修による地域活性-」
九州大学大学院 森 隆太さん・中山 颯梧さん・薮井 翔太郎さん・西村 宇央さん・井下 湧平さん・大塚 将貴さん・日野 友太さん

江川直樹賞
写真1

「うつろいのある建築 -都市の裏・渋谷川に自然を感じさせる空合いroof-」
東海大学 小野 里紗さん

総合資格学院賞
写真1

「京都 先斗町大橋 ~Pont des Ponto」
京都工芸繊維大学 久連松 文乃さん

各審査委員総評

【小林 英嗣氏】
東日本大震災からあと1週間で丸6年となります。ここに立つ学生の皆さんは、震災のニュースを聞いて育った世代で、そういった世情、様々な作品や建築家の所作・姿勢を学ばれたことでしょう。しかし「直接」建築関連の人間と関り合う機会は限りがあったのではないでしょうか。そんな折、都市まちづくりコンクールに参加し、審査やプレゼンテーションを通して、多様な考え方・行動の仕方に「直接」触れることができたはずです。この経験を通して、将来の方向性や社会との関わり方について考えてみてください。そしてこれから先、自信を持って自らの考え・提案を、社会・世界に向けて発信できるようになってほしいのです。作品の発表を通じて、皆さんからそういった資質・可能性も感じられましたし、我々審査員にとってもそれを感じられたことは喜ばしいことでした。

【江川 直樹氏】
多様な視点で様々な提案を必死にプレゼンテーションしてもらいました。聞いている側もこのような機会に触れられたことはプラスだったと思います。都市計画のこれからは「コミュニティと空間と制度」を再編していく時代だと感じています。今回、そういった視点をもった作品を評価させてもらいました。

【角野 幸博氏】
「都市との関わり方を考えているか」「計画地の読み取りができているか」「10~30年ぐらい先の時間軸を想定した計画か」「アイデアが都市空間に着地できているか」といった点に着目し評価しました。また、都市には様々な世代や属性をもった人たちがいます。今まで以上に、その人たちを慮る視点をもって計画できるようになってください。

【中野 恒明氏】
本コンクールも4回目となります。今までで一番多く作品数が集まっただけではなく、非常にレベルが高かったと思います。私は、場所の読み取りから問題提起をしつつ、提案を形にできている「学生らしい」作品を評価しました。私も東日本大地震の際、液状化現象の被害を受けましたが、そのような非常時、周りの市民は「建築士」である私を頼りに集まってきました。被害状況の調査や復旧の提案など協力しましたが、建築家になることや建築士という資格には、その様な社会的・人道的意義の高い活動ができる職能も含んでいるということも覚えていてほしいと思います。